「暑い」
「そりゃ夏だし」
低く呟かれた言葉にのんびりと答えた。
「なんでお前はそんなに涼しそうなんだよ!」
「新ちゃんといられるなら暑さも気にならないから♪」
「…………頭まで沸いたか?」
「はぁ……」
「あと新ちゃん言うな」
「……………はい」
だから本心なのに…。この鈍感男は中々気づいてはくれないようだ。
「でもさ、なんでお前までここにいるんだ?」
「だから、新一に会いたかったからに決まってんじゃん」
それ以外に俺がここに来る理由なんてないんだよ?
とにっこり笑って言ってやると思いっきり眉間に皺を寄せて胡乱気に見返してきた。
「人の補習見てて楽しいか?」
「新一といられるのが楽しい」
「…あっそ」
外は雲一つない青空。夏休みなことをいいことに隣の校舎を修復する騒音に負けないくらい大音量で歌う蝉。
それらを横目でみつつ俺達はクーラーのきいた涼しいはずの部屋で机と向き合っていた。
理由は新一の出席日数が足りないのを補うための補習。
といっても朝学校に来て先生から渡されたプリントを終わらせるだけだ。終わったら帰っていいということで新一もさっさと終わらせようと躍起になっている。
んで、何故俺がここにいるか。
それはもちろん新一と一分でも一秒でも一緒にいたいから。たとえこの想いが新一に伝わっていないとしてもだ。
再び真剣にプリントに向き合う新一に苦笑を洩らし俺はぼんやりと新一を見ていた。
誰もいない教室で二人っきりだというのに新一は俺を見てくれない。当たり前といえば当たり前だが、少し…いや、かなり寂しい。
遠くの方で合唱部の唄声が聞こえてきた。暑い中よくやるもんだ。
あ、音楽室もクーラーきいてるんだっけな。
そういえばさっきはテニス部がプールに入るとかで騒いでいたな…。プール…気持ちいいだろうな…。
青い空に向かって一羽の白い鳩が羽ばたいていった。その光景を見てぼんやりと何の気なしに呟いた。
「夏だなー…」
「うるさい」
「…スイマセン」
顔も上げずに帰ってきた声に思わず引き攣った笑みを浮かべて謝る。
もう少しで新一のプリントも終わるだろう。
そうしたら近くのコンビニでアイスでも買って一緒に帰ろう。ついでに新一の家に上がらせてもらえるならそのまま夕飯も一緒に食べようかな。
そんなことをつらつらと考えているのも楽しくて仕方がない。
折角の夏休み。楽しまなきゃ損だろ?
な、新一。
***
短い。